日本の鉄道ダイヤは、世界一正確だといわれます。

欧米でも、列車が時刻表どおりに運行されるほうが珍しいといわれるほどで、5分や10分の遅れは、遅れのうちに入らないのです。

日本では、列車の発着が5分でも遅れると、この列車は約5分遅れで東京駅に到着する予定です。

お急ぎのところ、まことに申し訳ございませんでしたなんてアナウンスがあるが、これは日本の鉄道関係者のプライドがそういわせているという面もあります。

なぜなら、日本の列車ダイヤというのは、じつは分刻みではなく、15秒刻みで運行されています。

それをキチンと守ってこそのダイヤで、5分遅れというのは、鉄道関係者にとって大いなる恥なのです。

もっとも、時刻表には当然ながら、15秒刻みのダイヤは掲載されていません。

秒単位をすべて切り捨てた時刻が掲載されています。

だから、実際は15時30分15秒着、30秒停車、15時30分45秒発という列車でも、時刻表では発着とも15時30分になります。

時刻表では秒単位が切り捨てられていることを知らないと、発着が同時刻の列車は、はたして乗り降りができるか心配になるが、最低でも15秒、最高では45秒の停車時間があるから、そうあせることはないのです。

また、小さな駅では、列車の到着時刻は省略して、発車時刻だけ掲載してあります。

時刻表ではそのあたりのことがわからないのだが、これも、駅間距離を確認したり、ほかの列車の所要時間と比較したりすると、ある程度予想することができる。

こんなことも時刻表を楽しく読むための知恵というわけです。

たしかにみどりの窓口の駅員もこうした大型時刻表を使ってはいるが、列車のプロ、つまり実際に列車を動かしている運転士や車掌は、別の時刻表を使っています。

携帯時刻表がそれです。

携帯時刻表には、列車の運転士が、その日一日乗務する列車の区間と時刻が秒単位で記載されています。

たとえば、列車番号1234Mで××駅を8時12分15秒発。

以下、各駅の到着時刻と発車時刻が記載されており、終点の駅に11時18分45秒着。

駅で1時間30分の休憩があり、その後、列車番号5678Mで駅を12時40分30秒発。

以下、各駅の到着時刻と発車時刻。

そして終点の××駅に15時56分15秒着という具合運転士の一日の運行スケジュールが、ひと目でわかるようになっているわけです。

鉄道マニアのなかには、この携帯時刻表をコンクションしている人も少なくないのです。

この携帯時刻表、最近は、JRの鉄道部品即売会などで一般向けに販売されることも多い。

ただし、この携帯時刻表にはあとで述べる列車番号しか載っていないためそこがプロっぽいのだが、手に入れた携帯時刻表が、いつどの路線を走ったどんな列車なのかは、相当のマニアじゃないとわからないのです。

パソコン時代ならではの時刻表ソフトはこんなに便利パソコン花盛りの昨今、パソコン画面で小説が読めるというCDIR-Mまで出てきます。

そんな時代だから、時刻表のパソコンソフトが登場してもおかしくないのです。

というわけで、時刻表をパソコンソフトにしたものが、現在、日本では2種類発売されています。

どちらもマウスをクリックするだけで、出発駅から目的駅までの最短経路や運賃、所要時間などを表示してくれます。

キーボードをいっさい使わなくても.Kだから、パソコンが苦手な人でも簡単に扱えます。

このほか飛行機を使いたい乗り換えを少なくしたいといった希望にそった経路も教えてくれるなど、何かと便利なソフトです。

また、時刻表を見るときは、傍らに地図帳が欠かせないという人も少なくないが、そんな人のためのソフトもあります。

これがあれば、まさに旅行ならぬ画面上旅行が楽しめます。

机上持ち運びに便利な、電子ブック用の時刻表ソフトもあります。

『JR時刻表』でおなじみの弘済出版社が出版したもので、新幹線、特急、急行、快速の一部が収録されています。

駅、列車、線の名前からの検索が可能で、ビジネスマンの出張時はもちろん、効率よく鉄道の旅を楽しみたいという人にも便利です。

年4回の更新予定だから、春や秋のダイヤ編成にも対応できる。

また98年からは、同じく弘済出版社から、『JR時刻表』のCDR.M版ハイパーダイヤが刊行されてしまったのです。

続々登場する時刻表のパソコンソフトによって、時刻表も新時代に突入しているようです。

『JTB時刻表』の欄外コーナーは鉄道旅行好きのネットワーク『JTB時刻表』は、さすが『旅』や『るるぶ』などを発行している日本交通公社が版元だけあって、お堅い弘済出版社の『JR時刻表』とはちょっと趣のちがうコーナーがあります。

これは読者からの投稿を時刻表の欄外に1行でまとめたもの。

スタートしたのは1989年で、以来、数字ばかりが並んでいる時刻表にあって、一種のコーヒーブレイク的な役割を果たしています。

編集部には毎月700通もの投稿があるというが、このページ、けっしてオタク的な内容ではないから、時刻表の初心者でも十分楽しめます。

時刻表のいちばん上の欄に記されている数字とローマ字を組み合わせたものがそれで、のぞみ1号は100lA、スーパーあずさ8号は8M、踊り子105号は6025Mというのが、各列車の列車番号です。

列車番号は、列車の名前より、さらに詳しくその列車を特定するもので、鉄道関係者にとってはきわめて重要な番号。

一般の乗客は知らなくてもなんの不便もないが、列車番号の意味するところ、その法則などを知っていると、時刻表を読む楽しみがグンと増す。

まずは、一般の在来線編です。

一の位と十の位百の位が0以外のとき00〜19……急行列車20〜49……電車、気動車、客車の普通列車50〜99……電車、気動車の普通列車奇数が下り列車、偶数が上り列車というのが基本。

また、特急列車の場合は、下りなら1、3、5……、上りなら2、4、6のように発車する順番や、列の名前のあとに続く号数をあらわしていることも多い。

百の位0……特急列車千の位がないときは2ケタ以下の数字になる1〜9……急行や普通列車の路線千の位1〜5……予備の番号路線を区別する百の位を補うことが多い6、71…季節列車8、9……臨時列車ローマ字M……電車D……気動車なし……客車列車最初に紹介したスーパーあずさ8号の8Mなら、上りの特急電車で、定期運行しているということがわかります。

また、踊り子号105号の6025Mは、下りの特急電車で、なおかつ季節列車というわけです。

これは、電車の本数があまりにも多いため、一般の在来線のような法則では数字が足りなくなってしまうからです。

というわけで、まずは首都圏の通勤列車です。

一の位と十の位その車両が配属されている基地での運用番号で、仕業番号といいます。

下り列車は奇数、上り列車は偶数山手線のように上り下りが特定できない場合は、便宜的にどちらか。

百の位と千の位始発駅の出発時刻のうち、時の部分。

ローマ字その電車の所属基地ローマ字が設定されていない路線もあります。

たとえば、山手線は所属基地が山手電車区で、ローマ字記号ではG。

中央線快速は武蔵小金井電車区H、豊田電車区T、横須賀線は大船電車区、幕張電車区でともにS。

というわけで、列車番号が669Hなら、始発駅を6時台に出発する、武蔵小金井電車区所属の、69仕業の、下り列車ということになる669Hは東京6時14分発の中央線特別快速高尾行き。

次は関西圏の通勤列車です。

一の位と十の位下り列車なら、始発から010305……のように、発車の順番をあらわす。

上り列車の場合は、0204……のように偶数になります。

百の位路線をあらわす。

千の位予備番号。

ローマ字路線をあらわす。

たとえば、木津←尼崎片町線〜JR東西線を走る快速電車は、すべて千の位と百の位が15でローマ字はM。

十の位と一の位は、始発から順に010305という具合です。

さて、最後に新幹線の列車番号の説明をしましょう。

一の位と十の位原則として発車の順番をあらわす。

下りは奇数、上りは偶数。

そんな東京を電車に乗って目いっぱい遊ぶためにはもちろん、仕事でもいいんですが、フリー切符を使うと便利で得です。

フリー切符にはさまざまな種類があるが、首都圏で発売されているものは、指定された区間ならJRの電車が乗り降り自由、さらに地下鉄や都バスも乗り放題というものもあります。

まずは、東京都区内のJR線と、営団地下鉄、都営地下鉄、都電、都バスに一日中乗り放題という東京フリー切符です。

山手線や中央線、地下鉄、都バスを使って東京都心部をあっちこっち行ってみたいという人にはかっこうのキップで、値段は1580円。

発売は、都区内のJR駅だけでなく、都営地下鉄の各駅や営団地下鉄の定期券売り場などでも行なっています。

次は都区内フリーきっぷ。

これは、都区内のJR駅に限って、何回でも乗り降りできるというものでフリー区間以外では途中下車できない、値段は出発地によってちがってきます。

最後は東京自由乗車券で、これは東京近郊から東京に遊びに来る人に便利なフリー切符です。

これは、山手線のほぼ内側のJRの各駅に自由に乗り降りできるというもので、値段はやはり出発地によってちがってくる新幹線特急急行を利用するときは、別に特急急行券が必要になります。

藤沢……1810円熊谷……2140円銚子……4240円水戸……4240円といったところだが、遠距離になると、普通乗車券で往復するより割安になるから、何度も乗り降りしなくても得。

たとえば、東京都区内を通過する場合の特例という項目です。

この場合の東京都区内は実際の東京都区内ではなく、あくまでJRが決めた東京都区内のこと。

神奈川千葉ー埼玉にまでまたがっているのだが、この太線区間を通過するときの運賃は、もっとも短い経路の営業キロ数で計算され、なおかつ片道101キロ以上の乗車券大都市近郊区間のみの利用はのぞくなら、途中下車ができるという決まりです。

JR時刻表の97年2月号には、例として、次のようなケースが記してあります。

岡山からJRを使って勝沼ぶどう郷に行く場合、実際に乗車する経路は岡山←東京←御茶の水←新宿←勝沼ぶどう郷となり、営業キロ845.4キロで運賃は1万1030円になるが、最短経路では岡山←品川←渋谷←新宿←勝沼ぶどう郷となります。

その場合の営業キロは8389キロで、実際の運賃は1万820円。

つまり、210円お得になるというわけです。

どうです、JRもちゃんとサービスしてるでしょという感じだが、ここまで具体的に教えてくれるのなら、ついでに次のようなことも教えてはどうか。

すでに説明したように、東京都区内を通過する場合、片道101キロ以上の乗車券なら太線区間は途中下車できる。

もっと具体的にいえば、勝沼ぶどう郷に行くついでに、千葉の親戚をたずねたり、新宿のデパートで買い物をしたり、南浦和の友人に会ったりなんてことが、いちいちキップを買わなくてもできてしまうというわけです。

いちばん安い乗車券だけで518.1キロも電車に乗れる百円玉1個に十円玉3個、たったの130円で最高どれくらいの旅ができるでしょうか。

隣の駅まで乗ったら終わりと思われるかもしれないが、そうではないのです。

なんと東京ー京都間ほどの距離を旅することだってできるのです。

JRの普通運賃は、営業キロに応じて決められます。

乗車距離が長くなるほど料金がアップするわけだが、じつはこの規則には特例があります。

その特例を使えば、たとえば東京近郊から518.1キロもの距離を、たった130円で乗車することができるのです。

この特例とは、旅客営業規則に定められたものです。

ちょっと長くなるが、全文を紹介しましょう。

ただし、特別車両普通回数乗車券を所持する旅客は、その券面に表示された経路以外では、特別車両を乗車することができないのです。

冒頭にある大都市とは、東京大阪福岡のことです。

つまりこの条文を簡単に説明すると、東京大阪福岡の近郊区間を移動するキップを持っている乗客は、目的地へ行くにあたって、どういうルートを使ってもいいという意味です。

これは逆にいうと、東京大阪福岡の近郊区間内に限っては、どんなに大回りをして乗っても、キップに書かれた目的地で降りるなら、最短距離分の運賃を払うだけでいいということでもあります。

ただし同じ駅や同じ区間を三度通ったり、大都市近郊区間から外に出ることは認められないのです。

また出発駅へ戻ったり、途中下車をするのもダメです。

これらの行為を行なった場合は、実際に乗った区間分の運賃を請求されます。

このルールにしたがって、たとえばJRの東京駅から新日本橋駅にできるだけ遠回りしていくコースが、種村直樹さんの『鉄道旅行術』JTBに紹介されています。

総武本線を使うと東京ー新日本橋間は1.2キロで、運賃は130円。

しかし、総武本線を使わず、東京から京葉線に乗って南船橋まで行き、そこから武蔵野線に乗り換え西船橋へ、そこから総武本線で千葉……とひたすら乗り換えを繰り返して、最終的に錦糸町から総武線で新日本橋へたどり着くというもので、その通算距離はなんと482.3キロというものです。

以上は東京駅を起点にした場合の、最低運賃でもっとも長距離乗れるルートだが、東京駅発でなければ、さらに長いルートがあります。

わずか130円で、なんと東京ー京都間よりもさらに遠い距離を乗ることができるのです。

鉄道ファンならずとも、一度試してみたい乗車法だが、駅員のなかにはこの特例を忘れている人もいて、車内改札のさい、キセル乗車とまちがえられるおそれもあります。

この長旅にチャレンジする場合、車内改札にあってもあわてないよう、さきの旅客営業規則と乗車ルートの図を用意し、質問されてもしっかり説明できるようにしておきたい。

仕事をさぼって2周分、2時間ほど車内で居眠りしてきた失恋したとき、涙がかれるまで乗り続けたなど、東京の街中をグルグル回る山手線には、さまざまな人間ドラマがあります。

ところでこの山手線、一周するにはいくらの乗車賃が必要なのかご存じでしょうか。

山手線一周分の距離は、345キロ。

山手線の料金は、東京山手線特定運賃にしたがって計算されるので、これにしたがうと460円ということになりそうなのだが、じつはもっと安い料金で乗車できるのです。

先述したように、JRでは東京近郊、大阪近郊、福岡近郊を、一般の料金体系とはちがう大都市近郊区間として、別扱いで計算しています。

山手線も当然、東京近郊区間に入るわけだが、この区間内にある駅から駅へ移動する場合、運賃は実際の乗車距離とは関係なく、二駅を結ぶ最短営業キロで計算することになっているのです。

この規則に従って、山手線に乗る場合を考えてみます。

たとえば上野駅から130円の初乗り運賃ですむ隣駅の御徒町へ行くときに、内回り電車で大回りしてほぼ山手線内を一周しても、払う運賃は130円です。

しかし、そこからまた130円払って、内回り電車で御徒町から上野駅へ戻ってくれば、どうなるか?

130円十130円260円。

すなわち、隣駅までの往復運賃を払えば、山手線を一周できるというわけです。

1時間で都心を一周できる山手線一周旅行は、外国人観光客などにも案外人気があるようです。

そうした人たちを相手にした山手線一周キップは、東京駅では神田行きの、新宿駅では代々木行きの往復キップというかたちで売られています。

わずか260円で楽しめるこの小旅行は、隠れた東京名物のひとつかもしれないのです。